あの日のことは、今でもはっきり覚えています。三男が小学校に入学する、ちょうど1ヶ月前のことでした。
なかなか決められなかったランドセル
もともと三男は大人しくて引っ込み思案な性格でした。
入学前にはランドセルを買いに行きましたが、好きな色を選ぶのにとても時間がかかりました。
何色がいい?と聞いても、なかなか決められない。結局半ば強引に私が黒のランドセルを選んだのでした。

保育園の先生からの一言
保育園の先生から「言葉の発達が少しゆっくりかもしれない」と言われたのは、年長の秋のことです。
最初は「家では普通にしゃべってるのに」と半信半疑でしたが、先生が親身に心配してくれているのを感じて、ひとまず提案を受け入れることにしました。
「言語聴覚士のいる病院へ行ってみてはどうでしょう」とすすめられ、近くの病院へ予約の電話を入れました。
でも、なかなか予約が取れなくて、やっと予約がとれたのは12月でした。
予約はとったものの、正直あまり気はすすみませんでした。
保育園の先生にすすめられた手前、仕方なく予約しましたが、三男に言語聴覚士は必要ないんじゃないの?本心はそう思っていました。
言語聴覚士の先生との初めてのセッション
一ヶ月に1回、45分間の言語聴覚士の先生によるセッションを受けさせてもらえることになりました。
セッションでは、言語聴覚士の先生が3枚のカードを三男に見せました。
それぞれのカードには、犬、猫、ウサギが描かれています。先生が犬のカードを見せて「これは何のカードかな?」と聞くと、三男はしばらく困った様子で黙ってしまいました。
そこで先生は質問の仕方を変えました。「犬と猫とウサギのうち、犬のカードはどれかな?」と3つの選択肢の中から選ばせるようにしたのです。すると三男は犬のカードを指さすことができました。
選択肢が多すぎると選べなくなってしまう。だから選択肢を少なくしてあげると選びやすくなりますよ、と先生は教えてくれました。あのとき、ランドセルの色が選べなかったのも、同じ理由だったのかもしれない、とあとから気づきました。
ランドセルを選べなかったのは、単なる優柔不断ではなかったのかもしれない。そう思うと驚きました。

「言語能力は3歳程度」と言われて
セッションの最後に言語聴覚士の先生は
「息子さんの言語能力は、だいたい3歳くらいのレベルです」といいました。
当時、三男は6歳。その言葉が、しばらく耳から離れませんでした。
恥ずかしがり屋で引っ込み思案な性格だから先生とコミュニケーションがとれなかっただけではないか。
だって家では普通に意思疎通できてるもの。何かの間違いだ。そう思いつつ、家に帰ってパソコンで色々検索しました。
言語レベルを引き上げるにはどうしたらいいか。単に単語を知らないだけだ。語彙力を増やすべく、図鑑をみせては、「この動物はなに?」「フラミンゴ、わかる?これはフラミンゴ!」と必死に動物の名前を覚えさせようとしました。
語彙力さえ増やせば、普通の子に追いつける。
そう思って必死に言葉を教え込もうとしていました。
「自閉スペクトラム症です」

その後、3月に発達外来の診察に空きが出たと連絡があり、受診することになりました。クリニックの田中先生(発達外来専門の先生です)が三男を診てくださいました。簡単なテストをいくつかして、先生はおだやかに、でもはっきりと言いました。
「自閉スペクトラム症です」
小学校入学を1か月後に控えたある日、医師からそう告げられました。当時の私は、自閉症についてほとんど何も知りませんでした。
頭の中が真っ白になりました。まさか、三男が自閉症?
でも、先生の説明を聞くと、すべて納得がいくのです。
保育園では友達ができなかった。単に恥ずかしがり屋なのかと思っていました。ランドセルを選ぶときも好きな色が決められない。単なる優柔不断かと思っていたけれど、選ぶことが苦手という自閉症の特性だったんだ。
散髪のときは家族みんなで押さえないと髪が切れないほど嫌がって抵抗する。長男や次男のときにはなかったことでした。
これらが自閉症のせいだと言われたら、たしかに、すべて納得できる。
でも、自閉症って、しゃべらないんじゃないの?うちの子は家族には普通に話しているのに。自閉症のはずがない。そう思う気持ちと、先生の理路整然とした説明との間で、頭の中がぐるぐるしていました。
「これからどうすればいいんだろう」「何をしたらいいんだろう」何も考えられなくて、ただその場に座っていたことを覚えています。
「放課後等デイサービスを利用できるよう、受給者証の申請に必要な診断書を発行しますね」
田中先生はその場で、診断書を発行してくれました。
診断書を手に区役所へ

家に帰って、真っ先に連絡したのは、近所に住む自閉症児の子をもつママ友でした。
「まず区役所の福祉課に行って、受給者証の申請をするといいよ」
「それから、子供に合う放課後デイサービスを探して体験にいってみたら?」
すぐに区役所へ向かいました。受給者証の手続きを済ませて、近所の放課後デイサービスへも連絡を入れました。「木曜日なら空きがあります」と言ってもらえて、少しだけほっとしました。
何をどうしたらいいのかわからない。
でもとりあえず、私に今できることをしなければ気がおかしくなってしまいそう。
とにかく動こうとしていました。
入学式が怖かった
入学まで残り1ヶ月。不安しかありませんでした。トイレはひとりで行けるだろうか。今から支援級への変更はできないけど、普通級ではやっていけるのだろうか。途中からの編入なんてできるのだろうか。普通級で入学してしまっていいのだろうか。
普通は入学式といえば、楽しみなイベントだろうに、私にとっては不安しかありませんでした。
あの日の自分に伝えたいこと

あの頃の私は、パソコンで自閉症について検索しては、夜になると泣いていました。
今の私なら、診断を受けた日の自分にこう言うと思います。
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
もちろん、困りごとがなくなるわけではありません。悩むことも、迷うこともたくさんあります。でも、あのとき私が想像していたような真っ暗な未来ではありませんでした。
三男は少しずつ成長し、私自身も自閉症について学びながら親として成長してきました。
あの日、不安でいっぱいだった私が想像していた未来とは違う景色が、今ここにあります。
これからも悩みながら、迷いながら、それでも親子で一歩ずつ進んでいこうと思います。